朝日新聞2013.7.2甲乙閑話 「『あまちゃん』彩るチンドン」

 NHKの朝ドラ「あまちゃん」人気に、大友良英作曲の人なつこく軽快な音楽が一役買っている。演奏しているのは「チャンチキトルネエド」。東京芸大の卒業生を軸にした、チンドン音楽のバンドである。
 「チャンチキ」は1999年、作曲家の本田拓也が結成した。チンドン屋契約社員を経て東京芸大に進んだ変わり種だ。作曲コンクールで優勝した作品のタイトルも「チンドン」。「いろいろな文化や要素が、互いに争わず、同居しているチンドン音楽にひかれる」と語った。喧騒の都会から、昭和がにおう街並みへ。路地を曲がるたびに鮮やかに変わる、東京の風景を愛した。足袋に草履という風貌で、電車にも車にも乗らず、何時間でもぶらぶら歩き続けた。清水宏監督の無声映画「港の日本娘」に曲をつけたり、ファッション業界のプロジェクトに参加したりと、クラシックの権威的な枠を振り払いながら走り続けた。
 04年、本田は自ら命を絶つ。26歳の彼の胸に何が去来したのかはわからない。「チャンチキ」も先月、メンバーそれぞれの人生の進展に伴い、活動休止が発表された。
 しかし、本田の夢の結晶がいま、全国の人々の笑顔の種となっていることだけは確かだ。あらゆる世代や立場の人々を、垣根なく結びつけられるのは音楽だけ。迷いなく語るはにかんだ笑顔を、毎朝、あの音楽とともに思い出している。
                              (吉田純子

あの薬師丸ひろこが、3枚目の大女優を演じ、「北鉄のユイチャン」が、荒んで見逃せない展開の「あまちゃん」の舞台裏の感慨深い文章だった。(引用は全文です。)
朝日新聞のこの「甲乙閑話」は、最近では珍しく面白いコラムだと思う。