「すっぴん」源ちゃんの現代国語・俵万智『サラダ記念日』

またまた、かなり更新をさぼってしまいました。本当に最近、こうしてパソコンを見る時間がなかったです。たぶん、4月になってからもストーブをずっとつけていましたし、じっとしていると寒かったので、座ってパソコンをつけるという動作をほとんどしなかった様な気がします。

今日は、久しぶりにこうしてパソコンを見れるのも、ようやく暖かいといえる日が来たからですね。

それと、なかなか書くことがなければ、こうしたブログも書く気にならないもので、冬の間は、「書こう」というような題材にめぐりあえなかったわけではないのでしょうが、こうしてえいっ、と書く気になるほどではなかったのかと思います。

今日書くのは、表題のNHKのラジオ第一放送でやってる『すっぴん』というレギュラー番組での内容についてです。これは、毎日午前9時ごろからお昼前までやってる、帯番組なのですが、毎週曜日ごとにメインのパーソナリティが変わり、金曜は、高橋源一郎さんが担当しています。

わたしは、この番組を何年か前からよく聴くようになりました。なぜかというと、当時週3回、朝母をディケアに送るとき、車の中でラジオをかけていて、その番組がなぜか面白く、つい聴きはじめていたという感じです。そのころから、高橋さんは出ていて、先日番組内で、放送をはじめてもう4年になる、という話もされていました。わたしも、考えれば、たしかそれくらい聴いているのですが、もう4年にもなるとは、、、。

この番組を面白く感じる、というのは、なぜなのか。おそらく、昔のラジオのDJを思わせる番組であるから。どうもリスナーはわたしとほぼ同年齢かわたしより年上の方々、つまり世代的に中高生の頃深夜放送を聴いて育ったとしごろの方々ではないかと、リスナーの方のメールとかの紹介が読まれたりするのを聴くと、思います。

そういう番組は、いまももしかすると、深夜にやっていたりするのかもしれませんが、さすがにもうそんな元気はないので、そういう時間帯でない、むしろ正反対の平日午前中という時間帯に、その種のスタイルの、昔懐かしい雰囲気の番組があると、つい聴いてしまう、みたいなところがあるのかも、と思われます。(仕事を普通にしていたら、聴けない時間帯ですが、、)

ラジオのこうした番組の特長は、なんといっても、「生」であること。それは意外と大きいですね。それがゆえに「熱い」。そういう番組は、実はもうかなりなくなっているのではないかと思います。

そして、FM局がJ-POPや英米人系のファンキーなDJで占められるに対し、ちゃんとした日本語の番組でそれなりに、話題の人のインタビューがあったりして、コンテンツが、これも昔風にちゃんとあり、話として面白く聴けるという点が、魅力になっているのではないかと。

こうした番組は、テレビでもかなり少なくなってきているように感じます。『すっぴん』は、かなりコアなゲストを呼んで、インタビューを1時間くらい綿密にしてくれる番組です。

この番組で、高橋さんがゲストに迎えた「時の人」のなかには、面白い人がいました。それは前にもここに書いたかもしれませんが、、、。


そのなかで、「源ちゃんの現代国語」というコーナーがあって、毎週、昔ベストセラーになった文学作品をひとつ取り上げ、その作品について、高橋源一郎がその背景となる「時代」も絡めて紹介するのですが、今日は、タイトルにも書いた俵 万智の『サラダ記念日』。

これは、忘れもしないわたしが大学時代、ベストセラーになった本で、ちょうどいまから30年前、1987年に出版され、かなり大きな話題になった歌集です。

その内容については、もう皆さん御存知のことと思いますが、今日放送で高橋さんがコメントしていた内容をちょっとだけ紹介します。

ひとつは、歌集が、歌集というのは、「短歌集」ですね、そういうのがベストセラーになるというのは、この俵万智さんのこの本が出るまで、誰も考えてなかった、というくらい非常に珍しい、前代未聞の事件であったということ。

この本は、リアルタイムにそれを知っている人は覚えているでしょうが、書店に山積みされていたのですが、高橋さんが言っていたのですが、すぐに売り切れ。そのすぐ店からなくなってしまう有様を高橋さんは、「蒸発」と言っていました。

当時、たしか村上春樹の『ノルウェイの森』(単行本)も、書店にならぶやいなや飛ぶように売れていて、この2冊(『ノルウェイの森』は上下巻の2冊だったので、正確に言えば3冊)の本は、たぶん短期間の販売部数の戦後1、2を競う記録を持つ本ではないでしょうか。

1987年はNTTの株が発売されるやいなやめちゃくちゃ高値をつけた年で、バブル元年というべき年でした。

そして、なぜ、俵万智のこの『サラダ記念日』が、それほどみんなに受けたかについて、高橋さんはこう分析していました。

1、「軽さ」:「記念日」というような本来重い意味で使う言葉(たとえば終戦記念日)を、「サラダ」という言葉をくっつけて、非常に「軽い」ニュアンス、ほとんど「気分」的なものに「変えて」、しかも現代の軽い系口語で表現している。

2、ブランド名:「東急ハンズのかばん」を短歌にそのまま登場させるような感性。その歌に象徴されるように、当時、高度消費社会がスタートした時代で、消費者としてコアな層、20代30代の若者に、圧倒的に支持された。

3、時代の劇的な変わり目には、日本では「短歌」のスタイルが大きく変化する:
 一度目は「近代短歌」の登場(与謝野晶子斉藤茂吉など)
 二度目は戦後の前衛短歌
 三度目は、このバブル期の消費社会の到来による口語短歌

以上三点が、「サラダ記念日」が、異常に思えるくらい爆発的に受け入れられ、信じられない部数を記録した原因だと、話した後、この本は、当時のブランド物の商品と同じような、あるひとつのパッケージとして、受けとめられたのではないか、と分析していました。

誰もが欲しいと思うようなヒット商品と同じ構造で、売れたのではないかというわけです。

このような消費のスタイルは、いまやあきらかに廃れてしまっていますが、昔は、歌謡曲でもなんでも、みんながひとつの商品を一気に求めて、数々のヒット商品というものが存在しました。ところが、バブル崩壊あたりを境に、そういうみんながひとつの商品を求めるといったことは、急速になくなっていきました。

『サラダ記念日』は、いまから見れば、そういった高度消費社会幕開けの時代の象徴になった歌集であったという、高橋さんの話は、さすがに共感の持てる鋭い分析であると思います。それは、モノそのもののよさより、付加価値によりモノが売れる時代の到来を告げる出来事であったのです。

本というのは、まさに「付加価値」だけでできているといってもいいような「商品」ですから。それそのものはただの「紙をたばねた物体」でしかないのです。


最後にこのラジオ番組『すっぴん』の魅力は、毎日変わるメインのパーソナリティを支える「アンカー」の存在が大きいです。(「アンカー」とは、どういう意味か知りませんが、昔なら、そうですね、どう呼んでいたでしょうか)

それは、藤井アヤコさん、という女性アナウンサーです。この人のメインのパーソナリティをいじるちょっと意地悪な語りと豪快な笑いは、NHKとは思えない迫力と、放送人としての真面目さがにじみ出ていると思うのは、わたしだけではないでしょう。

なんか、昔聴いたオールナイトニッポンの某中島みゆきを思い出したりします。(たぶん藤井さんは、おそらくは同じ世代で、某中島の番組を聴いていたのではないかな、、。)