北海道〜根室〜「男たちの旅路〜流氷」

よくブログにお邪魔する写真家id:Youkoさんが、連日北海道の広大な風景を写真におさめ、ブログにアップされている。
昨日の朝某公共放送でも富良野のラベンダー畑を写してくれていた。昭和30年代から盛んで当初はオイルを採るための工場がたくさんあったらしい。
今では、「ラベンダー畑」なぞという鉄道の特設駅もあり、夏場はとくに観光がメインになっているようだ。
農家の方が集まり、取れ立ての野菜を料理して出す野立風レストランも紹介されていた。
北海道づいていると思うのは、ひょんなことで懐かしのドラマ「男たちの旅路」で根室を舞台にした「流氷」を見ることになったことだ。
もちろんビデオである。
放映は遥か昔、1976年が初出の某公共放送作成のテレビドラマシリーズである。
3年前デジタル放送で集中放映していたものを録画した。その時でもほぼ30年ぶりに再会した。以来年に数回だが見ている。
シナリオはあの「不揃いの林檎たち」の山田太一。当時まだ駆け出しだった彼の名を一躍高めたのは、まさに元特攻隊の主人公吉岡指令補を演じた鶴田浩二、若い部下を演じた桃井かおり、水谷豊らの演技が水際だってよかったからだろう。
いま見ても全く古さを感じないし、私は時々なにか考えたいときや迷いが生じたとき、このドラマを見るようにしている。
中でも、昔一度見てインパクトがあった「流氷」は、シリーズ中傑出した味わいがあるエピソードである。

シリーズは吉岡指令補という特攻隊上がりの戦中派を主人公にしていて、各3話毎に年に一度のオムニバス形式のドラマだった。
各話である警備会社の管理職である吉岡晋太郎と森田健作桃井かおり、水谷豊(相棒の水谷豊の若い頃)ら若いガードマンがお互いの世代意識をぶつけながら、事件を解決してゆく。
事件は、たとえば客船を過激派の若者が乗っ取ったり、宝石店を猟銃で襲ったりといったドラマチックといえるものから、ロックグループ(ドラマの主題曲を担当したゴダイゴだったが)のコンサートを警備していて、会場で倒れた女の子の両親の過保護に隠れた無関心を吉岡が激しく避難したり、スーパーの万引きを警備していた桃井かおりが犯人を捕まえるが、身の上話を聞いて逃がしてしまう話など、日常に直結したリアリティのある事件にいいものがあった。
そのなかで常に戦中派吉岡の人間味のある揺るがない価値観が、生きる意味を見失ったかのような当時の若者たちと対照的に浮き彫りにされ、人間とは社会とはなんなのか、とか考えさせられた。
なかでも過去となりゆく戦争の時代と現代の若者の思いを重ねて考えさせてくれた。
さて、この「流氷」だが、この前回のオムニバスシリーズの最終回「別離」の続きだ。
吉岡指令補はその「別離」で桃井かおり演じる悦子と死別する。
彼は警備会社の上司であったが若い悦子から愛の告白を受け、自身も恋心を抱きつつ、特攻隊で死んだ仲間に忠義をたてるため、その気持ちを圧し殺してしまう。
悦子は不治の病に侵され、吉岡に最期に「一緒になろう」と言われながら息を引き取る。
吉岡はその直後、東京から挨拶もせず姿を消してしまう。
「流氷」は、その行方のわからなくなった吉岡を部下だった水谷豊が北海道根室まで探しに行き東京へ連れ戻す話である。
吉岡は根室の居酒屋で皿洗いをして、夜は酒を浴びる毎日を過ごしていた。
陽平こと水谷豊が、そんな吉岡を説得し必死に連れ戻そうとするとき、このセリフをはく。
「特攻隊でさんざんカッコいいこと言っといて、いなくなっていいんですかね」
「そりゃ昔のことだからきれいに思うのは当然じゃないか〜なぜあの時代、戦争になっていったかとか、なぜとめられなかったのかとかもっと話してほしいね」
「俺は50代の人間にはそれを話す義務があると思うね」

吉岡は次の日の朝部屋をからっぽにしていた。陽平はそれをみて駅に急ぐと吉岡が汽車に乗っていた。
ずっと陽平と知り合い吉岡とのやりとりを見ていた地元の青年(清水健太郎)と妹(岸本加代子)が、吉岡と陽平の仕事を越えた前世代と後世代の絆に触れ、一緒に根室を離れ同じ汽車で東京へ向かう。
その北海道を走るローカル線の中で吉岡は陽平に
流氷を見たことがあるか?
と訊く。
根室に来て吉岡が見たときの流氷の光景が写し出される。
そこに悦子の生きていたときの映像がフラッシュバックする。

このシーンに人間のなんというかどうしようもない運命への怒りや無念の感情と自然への畏敬の念がこめられていて、なんと山田太一はうまいんだと思わされる。シリーズ全体のクライマックスのシーンだと思う。
吉岡指令補という特攻隊上がりの戦中派を追い続け、若者たちと対峙させたうえ、その途中で我々の前から逃走した主人公を若い登場人物に連れ戻させる。またシリーズは吉岡という不出生のヒーローを中心にして語り継がれるのである。
心憎い企みというか、絶妙の構成だ。
鶴田浩二の演じる吉岡指令補は、この「流氷」以降、特番「戦場は遥かになりて」を入れ4話続いた。
その中に水谷豊の姿はない。彼演じる陽平はこの一話を最期に姿を消す。
彼は吉岡を連れ戻したあと会社を辞め、吉岡の部下であることをやめるのだ。
「相棒」でブレークしたこの渋い俳優の若い頃の渾身の演技一度見てみてほしい。
そして昔はある意味テレビでこんないいドラマを見れた。
阿修羅のごとく」(向田邦子)、「北の国から」(倉本聡)など茶の間というものがまがりなりにもあり、家族で固唾を飲んでブラウン管を見つめていた。
ある意味幸せな時代だったのかもしれない。
「流氷」〜一度ぜひ見に行きたいものだ。もはや私は陽平より吉岡の歳に近くなってしまった。
しかしあの頃の戦中派が伝えていたもののどれだけが自分にあるだろうか。
深い自責の思いに陥らざるを得ない。
でもなにかはじめられるとしたらそこからしかないだろう。