山田太一『男たちの旅路』を観る#1成立ち〜吉岡司令補は「帰ってきたウルトラマン」?

昨日久方ぶりにETVアーカイブスの敬老の日特集でテレビドラマの脚本家山田太一さんのたぶん昔のインタビューを放映していた。
そのなかで代表作の『男たちの旅路』を部分的(「シルバーシート」というタイトルのストーリーの一部であった)に紹介しているのをみた。
懐かしい映像であった。(収録は2001年らしい)
このドラマは、わたしがじつははじめて真剣にみたテレビドラマで、1976年2月から1982年秋まで、足掛け6年にわたり、年2回から1回の頻度で放映されたNHKのテレビドラマシリーズだった。
脚本は、それまで『それぞれの秋』(桃井かおりが主演)など何本か佳作のドラマを発表していたが、シナリオライターという職業があまりまだ知られてない時代だったせいもあって、業界はともかく世間的にはほとんど無名といっていい山田太一だった。
各回原則完結するが連話式の1シーズン3話(当時は1部2部といった呼び名であったが)を、週1話づつ放映するというものだったが、こういった新しいタイプの本格シリアスドラマは当時あまりなく、話題と人気を呼んだのだろう、ほぼ同じキャスト、背景、タイプのストーリーで、計4シーズン6年にもわたり続けられた。
さてそのストーリーとは、70年代後半から80年代という時代に日本が知らぬ間に直面していた高度経済成長後の大衆都市社会が抱える身近で煩雑かつ多様な問題を、正攻法で真正面から、ドラマの流れに絶妙に取り込んでゆく、卓抜したものであった。
自殺、万引き、銃を持った強盗、過保護、性犯罪、過激派による乗っとり、バスジャック、社内の不正、組織の論理と個人の齟齬、行方不明、不治の病、生意気な部下と上司の対立、老人問題、芸能人の苦悩、障害者に若者の集団暴行等々〜それらの問題の大半は、当然いまだに根本的な解決を与えられず、21世紀初頭の現代日本においても、むしろ悪化しながらも横たわっている。
4シーズン計12話と、最終回前編・後編二回にわたるスペシャル版1話(「戦場は遥かになりて」)合計13話が製作され、NHKの「土曜ドラマ」という新たにこのドラマのため設けられたような枠で放映された。
36年後のいまも「土曜ドラマ」は残っているが、このドラマが最初の作品だったように思う。
ちなみにNHKは、こういうドラマシリーズ番組枠にタイトルをつけるのを特徴としており、当時、いまも存続する「大河ドラマ」「(朝の)連続テレビ小説」という枠の他に、「銀河テレビ小説」という20分くらいの枠があった。(なぜか「小説」というタイトルが二つもある。「小説」の映像化がドラマという考え方だろうか?)他にもいまは火曜日が「よる☆ドラ」枠になっていたり、たしか時代劇の枠もあったり、さすがに番組編成に揺るぎない安定感がみえる。(ドラマの視聴率に波があり、いろいろ叩かれているが…)
この土曜ドラマ枠は、その後、『南十字星』等数々の名作連続ドラマを生む。
そしてこのシリーズは、シナリオライターというテレビの裏方の存在が、ドラマという作品を作るアーチストだと認識させ、その地位を高める場を提供したといえるかもしれない。同時期に民放でも、向田邦子倉本聡らが、シナリオライターの存在を世に知らしめはじめていたのだった。
たしか、山田太一も、ふたたびこの枠で、緒方拳を主役にした『タクシーサンバ』を製作している。
さて、この『男たちの旅路』シリーズのオープニングを飾ったのが、第1部第1話「非常階段」だった。1976年2月のことだ。
わたしはまだ中学に入る前(たしか小5)の冬であった。内容はむろん、当時観たものとしては、はっきり言って覚えてない、というかわからなかったのだろう。再放送やCSデジタル放送でリバイバルされたものを、いまは覚えたり、それを録画したものを観たのを覚えているに過ぎない。
しかしいまでもよく、あの森田健作と水谷豊(両者ともめちゃくちゃ若い)がブルーのガードマンの制服を着ていた姿と、ドラマのオープニングにテーマソングが鳴る少し前に3分間ほどドラマの冒頭をまず流す(こんないまでは定番となったテレビドラマの手法を、いち早く最初に使ったのもこのドラマだったような気がする)、そのさらに前に時報のようなチャイムが放送されたのを覚えている。
たしか8時だった。チャイムとともに「土曜ドラマ」と電光のサインがビルの看板でぐるぐる回るシーンが流れるのだ。
はじめて子供用とは違うなんだか大人向けの番組を見た気がした。
それはしかし、たしかにわれわれ小学生にも違和感なく、見ることが意外とできたのだった。
たぶん、『男たちの旅路』の全13話を通じて、登場し続けた警備保安会社のあのブルーの制服、それは子供時代からずっと見慣れた『ウルトラマン』シリーズの科学特捜隊やウルトラ警備隊のユニフォームに、微妙に、似ていたからだったかもしれない。
また、この警備保安会社というこのドラマの舞台は、いかにも当時の急速に都市化し大衆化しはじめた日本に、沸々と吹き出てきた社会問題に関与し、時代に鋭く切り込み断面をのぞき見る、格好のレンズの役目を果たした。
そして、先程『ウルトラマンシリーズ』とこのドラマをなぞらえてみたが、そのまさにウルトラマンに勝るとも劣らないヒーローが、このドラマには登場するのだ。
それこそ、実は1962年に燦然と登場したウルトラマンが、「帰ってきたウルトラマン」で帰ってきたときよりも、リアルにじつは「帰ってきた」事件だったのかもしれない…。
このドラマの主人公、鶴田浩二演じる吉岡晋太郎司令補は、まさに、なぜか「戦後」という時代の幕引きといわれる1970年代中頃に、突然、テレビ画面を見るわれわれの前に「帰ってきた」ヒーローだった。
そして、鶴田浩二その人もそうだったように(文字通りそうだったわけではないと情報が出回ってはいるが、戦場にいた方であることは変わりない)、吉岡司令補の役柄は、特攻隊の出撃を命じられたが、奇しくも直前に出撃を免れ、その命を長らえた元特攻隊員、戦場から「帰ってきた」男だった。

☆しばらく随時山田太一氏脚本の往年のテレビドラマ・シリーズ『男たちの旅路』について、語りたいと思います。あまり頻繁に載せるのは無理かもしれませんが、お付き合いください…。
いまさら感はぬぐえませんし、DVDでしか見れず、しかもレンタル屋さんにはなぜか最近のドラマや『北の国から』はあっても、向田邦子さんや山田太一さんのものはあまりないのは、非常に残念です。(もしあればぜひご覧になってみてください〜。)→現在NHKオンデマンドという有料のサービスで見れるようです。
番組表ヒストリー | NHKクロニクル