梅雨明け〜大河ドラマ・龍馬伝「日本(ニッポン)を洗濯いたし申し候」

朝からひさびさに晴れて西日本をはじめ、関東甲信越でも梅雨明けとなった。
急にセミの声が耳につくようになった。セミの幼虫は雨の日に孵化するらしい。今年の梅雨はセミの幼虫にはうってつけだったろう。
昼間に再放送の大河ドラマ龍馬伝」を見る。福山龍馬が、テレビでかなりな迫力で画像になっている。今年から大河ドラマに新しく取り入れられた映像手法らしく、今までの時代劇のようなセットの小綺麗さはなく、埃や血や泥が現物のように写っていてリアリティが出ている。
今日は武市瑞山半平太が牢で龍馬と別れを交わす回で、彼は土佐藩山内容堂に、彼が率いた土佐勤王党吉田東洋を暗殺したと自供し、切腹を命じられる。
龍馬は武市と吉田東洋の下手人は誰だと毎日拷問を受けていた岡田以蔵を助けるべく、脱藩者の身の危険を省みず、土佐に秘密で潜入し「吉田東洋を殺したのはわしじや」と東洋亡き後家老を継いだ後藤象二郎の前に現れる。
容堂はそれを聞くと直々に武市の牢の中に入り、床に腰掛け、龍馬が下手人だというが、わしは信じん、と武市に話す。武市は自白する。
「藩のため容堂公のためになると思いやったのです」
容堂は「おまえはわしに似ている。日本は天子のもんであって徳川幕府のもんじゃない。わかっているけど忠誠心が強くそれを捨てられんのじゃ」
武市はそのあと忍んで会いに来た龍馬に、
「おまんは奇跡を起こしてくれた」と語る。「大殿様がわしと同じ板の間に座ってそうわしに語ってくださった。わしは日本一幸せな男じゃ。龍馬、これは奇跡じゃ。おまはんはもっとおおきなことをやれる男や。日本を外国から守り立派な独立国にしてくれ」
そばに岩崎弥太郎がいて、武市はむかし龍馬が弥太郎に「下士も上士もない時代が必ずやって来る」と言っていた思い出を語るのである。
この話は、司馬遼太郎の「龍馬がゆく」にはなかったかもしれないし、史実とは違うかもしれない。しかしこのシーンは封建主義の重圧がいかにすさまじく彼らを縛っていたか、そしてそのなかでの土佐の同じ下士出身者であり幼馴染みの龍馬と武市の性質と運命の違いを見事に浮かび上がらせる。
この別れの後、龍馬はのちに海援隊となる土佐脱藩浪人たちに有名なあのセリフ「日本を洗濯致し申し候」を語るのである。

日本の近代の歴史の中で「使命」というものを実感しながら生きた人間は何名かいるだろうが、歴史小説「龍馬がゆく」で司馬遼太郎が描き、この大河ドラマ龍馬伝」でも新しく描かれつつある坂本龍馬はその代表選手であろう。
たしかに話に少し誇張はあるかもしれない。彼は明治維新を目前にして暗殺されてしまうが、その後生きていたとしても政権に携わる気はなかったらしい。
しかし、おそらく維新の元勲となる西郷や桂や大久保といった面々よりはるかに先を見ていて、彼のプランニングだった「薩長連合」「大政奉還」という歴史的権力委譲劇、「船中八策」が明治政府の起源となっているらしき点、やはり彼の存在そのものが、幕末における未来への羅針盤になっていた気が非常にする。
そしていまだに人気がある。
日本にそういう人物がいたということは、ドラマで武市が語っていたように、奇跡と呼べるのかもしれない。
梅雨明けの青空を見て、そう思った。
なおその「特別展・龍馬伝」を19日まで京都文化博物館(三条高倉)で開催しています。あまり日はありませんし1200円と入場料高いですが、龍馬が暗殺された近江屋の部屋の復元や平井加尾が持っていた寄せ書きの胴掛等が展示されています。