"Never Let Me Go"『わたしを離さないで』(カズオ・イシグロ )

新年にBOOK・OFFで買い漁った100円均一の本のなかに、ハヤカワ文庫の標題の本、"Never let me go"がありました。もちろん翻訳です。読み終わったいま、僭越ながら、タイトルだけはあえて日本語にせず、村上春樹サリンジャーを訳したときみたいに、英語のまま、カタカナで、『ネバー・レット・ミー・ゴー』とした方がいいと感じました。それか小さいポイントの字で英語の原題を副タイトルにするとか。理由はあとで書きます。

近未来、というかもしかしたらありうる現実を描いた物語です。だから一種のSFというか、あえて言えばディストピア小説です。

じつは、わたしは本を読む前に、昨年一度レンタルでこの本を映画化したDVDを見ていました。そのときの印象が強く、かなり風景や登場人物なども、映画のシーンを思い浮かべて読んでしまいました。しかし、映画ではこの物語のやはり大雑把なストーリーを描くことで手一杯で、本を読んで、はじめて映画のなかのシーンの意味を理解できたようなところもありました。

逆に言えば、映画を見れば、この素晴らしい物語を手っ取り早く、深く理解できるかは別にして、見渡せると言えるかもしれません。

そう考えれば、小説の映画化には限界があると言えそうですが、この小説をかなりうまく表現できていた映画でした。おそらく、どんなに優れた監督が作っても、あれ以上は無理だったかなと思えるほどです。

カズオ・イシグロが何年か前にノーベル文学賞を取ったとき、この小説をテレビドラマ化した日本の民放のドラマが話題になりました。たしか綾瀬はるかが主人公の介護人を演じていたらしいですが、わたしが見たのは海外(アメリカ?)の映画です。

タイトルの" Never let me go"とは、じつは物語のなかに出てくるある歌のタイトルです。映画でも、印象的に出てくるのですが、なぜか、(かなり前に見たので間違っているかもしれません)小説では最後の方に、その歌のことを回想するシーンがあるのに、映画ではハショられていた記憶があります。

この物語のなかで、いちばんクライマックスのシーンなのに。そこに、なぜこの小説のタイトルが Never let me goなのかの理由が凝縮されているのです。

ぜひ小説を読んでみてください。決して、楽しい小説ではないですが、素晴らしい、深いし、懐かしいものを感じる物語です。

さて、謎はこの小説にでてくる、その歌。 Never let me goは実在するのでしょうか。小説でも映画でも、主人公がその歌のカセットテープを聴きながら、自分の部屋でひとり踊る場面が出てきます。

小説では、それはジュディ・ブリッジウォーターという名の女性歌手が歌っているヒットソングとして、販売されていたものを主人公が買って、学生寮で隠れて聴くのですが、さて、そんな歌は実際あるのででしょうか。

たぶん、カズオイシグロが頭で考えた架空のヒットソングでしょう。

まだやってないですが、いちおう検索して探してみたくなりますが、おそらくないでしょう。

一度、しかし、そのタイトルで歌を作ってみたいなと、いま思っています。