梶井基次郎「檸檬」〜もしかしたら京都モダニズムの源流

週末、空梅雨を幸い四条、三条辺りの街路にスーツ姿の集団や学生らしきラフな格好で自転車に二人乗りするアベックと多くの人が溢れている。
なかなかそんな時間に街に出れる仕事の業種ではないのだが、たまたま早めに退社でき、帰るのももったいなく足が繁華街に出向いた。
かといって日頃のかなしい習性でなんとなくひとけを避けて、寺町通りを北上。ここらは何か金曜というのに夜が早い。
早々とアーケードの下はシャッターを下げ、灯りもそこここにポツポツあるだけ。
コシャマな子犬を抱いたエプロン姿のおばちゃんなどが目につく。
寺町の二条の角に梶井基次郎の名短編「檸檬」に出てくる果物屋がある。
いつもそこを通る時、あの「檸檬」の冒頭の一節、
「えたいの知れない不吉な魂が私の心を始終押さえつけていた。焦燥といおうか、嫌悪といおうか…」
をおもい起こす。青春のブルーさをこんなにも純粋にせつなく刻み付けた小説はあるまい。
その果物屋さんはすでに閉まっていた。梶井基次郎は、小説のなかで、この店の裸電球の光が「細長い螺旋棒をきりきりと眼の中へ差し込んでくる」と見事な表現をしている。
檸檬」には寺町通りが一体に明るいのにこの果物店の周辺だけが妙に暗いと言っているが、今も、昔よりさびれていることもあるのかもしれないが、まったく同じなのにへんに感動する。
果物屋の裸電球はなかったが(おそらく開いていてもなかった気がする)、この果物屋の通りを挟んだ斜め向かいにまさに
きりきりと眼に差し込む裸電球
を店先に光らせている店を見つけた。学生っぽい客が原付で来て入っていくのが見える。
何の店かと寄っていくとサーファーっぽいシャツや70年代風のかばんや帽子をおいている。スターウォーズに出てくるR2D2のかなり大きな人形?も、あった。
わりと知る人ぞ知る店っぽいがあの裸電球は無意識にやっているのだろうか。なんだか梶井小説の世界にタイムスリップするようだった。
この二条通りは岡崎の美術館や京都会館に繋がっていて、寺町には画廊も多い。そのせいか、なぜかモダニズムをどこよりも強く感じてしまう。
実は私の父方の実家はこの二条通りにあった。寺町通りから河原町通りを挟んで東に二本目の木屋町通りが二条通りに突き当たり、T字型に途切れる、ちょうどその交差するところで酒屋を営んでいた家だ。
代々の酒屋さんではない。父の兄である伯父が始めたのである。
非常に古い町屋で、小さいときはよくお邪魔し、その古い家は独特の昔の香りがした。
その家は、そこにマンションが建つことになり、もう何年も前に壊された。鉄筋になり店も新しくなったが、五、六年前、店じまいした。
自由化のあおりをうけ、酒の量販店の隆盛、コンビニの酒類取り扱い開始にひとたまりもなかった。
隣がホテルフジタなのでその昔はそこに泊まっていた芸能人が夜、酒をひそかに買いにきた。私もいちど倍賞美津子がきたのを見たことがある。
話がそれたが、どうもこのあたりを通る人たちを見てると、着てる服が半端じゃなく、色鮮やかなのと一種奇抜なので、目を引く。
源流なんて言ったが、京の着倒れ、浪速の食い倒れと言うごとく、芸術でもそうだがスタイルにもっともこだわる京都らしさが感じられるエリアだ。
ひところの北山通りなんかとも共通するが、まだ町屋も減ったが残る古都とモダニズムが絶妙に入り交じっている。
そこで思ったりするのは、場所は全く異なるが、本屋さんのことだ。
これが本屋なの?とまさにアトリエかモダンな喫茶さながらの恵文社一乗寺店という本屋がある。非常にオリジナリティに溢れた、日本とは思えないリッチな(お金じゃなく精神的に)雰囲気に浸れる空間である。
最近行ってないがどんどん有名になっているようだ。
私はあの本屋が普通の本屋だったころも行っていたが、平積みの本だけが妙に「ラディカル」(昔、ポストモダンの学者が使っていた言葉だが)だったことを覚えている。
別な本屋で、こちらはロック音楽関連重視な品揃いでCDもおいたり、本のリクエストも募ったりしているガケ書房という本屋がある。
この書店も本屋とは思えない作りの空間で異色の書物が自費出版ぽい本も含めいっぱい並んでいる。
白川通りに面した壁に車の後部だけが突き出ている、そんなぶっとぶオブジェが目印という、外からは本屋だとは決してわからない不思議な店である。
老舗では京都には三月書房やアッサルテ書房など変わった本屋が多くあるようだが、恵文社ガケ書房は今や日本でも屈指の本屋であることは間違いない。
でも京都だから生まれたのではないかと思わせるなにかが、寺町通りや二条通りに流れているような気がした。
ちなみに私の大学からの友人が下記サイトでバーチャルサブカル古書店をやっています。
http://pop-book.net/
興味のある方はどうぞ〜
さらに恵文社のハブロも見つけたので紹介しておく〜
「店長ブログ」id:keibunsha
「スタッフブログ」id:keibunsha2