CD「風街ろまん」を聴いて、はっぴいえんどのレコードがありそうだった友達の下宿を思い出す

いまさらだが…はっぴいえんどの「風街ろまん」は驚異的なレコードである。
この復刻版CDは、春先に(レンタルで、、、)聴いたのだが、最近じっくり聴いて驚くべき音源が残されていることを知った。これは、日本の音楽の伝説というより、最近のJ-POPでさえも、コピーしている元の源流のように思われる。早い話が「真似」なのだ。J-POPの女性アーチストがコピッていると思われる大御所ユーミンと同じことだ。

ところで、ユーミン荒井由美時代のバックバンドは、ほぼはっぴい・えんどの分身に松任谷正隆林立夫が加わったキャラメル・ママ(のちに高橋幸宏も加わりティン・パン・アレーになる)だが、たしかにユーミンの初期の一部の曲のアレンジは、はっぴい・えんどそのもの、みたいなことがよくわかる。(荒井由美の最初のシングル「返事はいらない」の間奏ギターはまさに鈴木茂だ)
こんな日本のロックの夜明けの話など、いまや伝説というより一般教養みたいな常識だろうが、こうやってスローに納得しながら確認するのも面白い。

これにはいいわけめくが、たぶんわたしが学生時代、狭い関心の範囲以外は、自分で本やCDを買わず、友達の下宿のものを(当時はもちろんLPだった…)読み聴きあさるという、寄生虫のようなことをしていたからだ。わたしは自宅生で、その自然な習性として、友人の下宿を泊まり歩くのが日課だった。
いちばんよくお世話になったのは、当時下鴨神社の近くの下宿に住んでいたM君であった。
毎月『宝島』や『ビックリハウス』を律儀に買い、思想系の有名無名の本を独特な選択でそろえ(渋沢龍彦松岡正剛あたりがその嗜好の柱になっていた)、あるいは図書館から借りていた本も含めると、かなり読みきれない量の書物がマンガも含めあった。
それと60年〜70年代ロックのレコードは山のように買い漁っていた。
彼は高橋G一郎に風貌が似ていて、私が彼の下宿に行くと、電気ポットでお湯をわかし、お茶やコーヒーを必ず煎れてくれた。
当時の下宿には個別のキッチンやガスはなく、流しや便所は共用だった。
朝まで安い酒を飲んでいることが多かったが、翌朝、彼は先に目を覚ましていてレコードをまずかける。そして、レコードを聴きながらわたしたちは煙草を一服吸って、目を覚ます。
彼のその下宿は小学校のそばにあり、二日酔いで朝寝していると、まず雀がさえずり、そのあと子供の声やチャイムが聞こえた。
そこは大屋さんの家の離れにあるような古い形式の下宿で、当時人気があり彼もファンで揃えていた村上春樹の初期作品で、主人公が住んでいる部屋のような下宿であった。
廊下にあるダイヤル式の電話機がはげしいベルをならし、10回目くらいに誰かが取り、同じ下宿の違う部屋のドアをたたき、日頃話したことのない相手に「○○さん、電話ですよ」と叫ぶ。
その手のエピソードの代表的なものは『1976年のピンボール』に出てくる。
わたしはそのシーンを読むとまだ畳の部屋だった彼の下宿を思い出す。
クーラーなどまだついてない部屋が多かった。ましてや携帯などまだまだなかった。当時から少しづつできていたワンルームマンションに住んでいた先輩や友達もいたが、まだ大半はこの種の下宿やアパートに住んでいた。

彼はコアなロック・ファンだったから、わたしや共通の友人だったO君が好きだったイーグルスジャクソン・ブラウンなど軽さの目立つからかアメリカのバンドは、あの偉大なドアーズ以外は聴いているのを見たことがない。
別に嫌いとかそんなことはいっさい言わなかったが。そのかわり三度の食事みたいにドアーズはよくかかっていた。ライト・マイ・ファイアは、耳にタコができるくらい聴かされた。
そして彼がかけなかったもう一つのジャンルそれは日本のロックだった。
その手の雑誌や本はよく彼の下宿で見て、スターリン、パンタ、頭脳警察などよく載っていたが、彼はレコードを持っていたのだろうか?どうも一人で聴いていた気もするが、わたしが興味を示さなかったからかけなかったのだろうか?
もちろん彼が当時一世を風靡していたバブル系のユーロビートのディスコミュージックやおにゃんこアイドル系歌謡曲、またリゾート・シティ系のニュー・ミュージックの音を部屋から閉め出していたことは言うまでもない。
話が長くなったが、しかし彼とはっぴい・えんどはどう考えても合うのである。なぜその頃、彼ほどのやつがそれを聴いてなかったのか、いやそうではなく、わたしがろくにかかっていても、聴く耳を持っていなかっただけだろう。
今ごろ、愚かにも聴くようになったのは、やはり少しはそのせいもある、と人のせいにする私だ。(ごめん、M)

彼はいま、学生時代やサラリーマン時代に買いためてきた本やマンガに、あらたに日本中からコツコツと買いあげたものを加え、インターネット上でバーチャルな古書店を営むでかなりたつ。
(「POP書房」リンク集にバナー作りました!)
この夏は、クーラーのなかった時代によく聴かれていたと思われる、ドアーズやはっぴいえんどがよく似合う。
なぜならクーラーも効かないほど暑いからだ。
♪ぎんぎんぎらぎらの夏なんです♪
♪ほうしつくつくの夏なんです♪(はっぴいえんど「夏なんです」作詞:松本隆、作曲:細野晴臣

(YOU TUBEに、「夏なんです」の風景写真の素敵な動画がありました。)