自転車にまつわる追いかけられた話

今日所用があり、自転車で地下鉄駅まで行く。
駅の自転車置き場が地下にあり、本来なら自転車を降り手押しで下らねばならないスロープを、いつもやるのだが、無精して乗ったまま降りる。そのとき、どんくさくなったもので、誤って真ん中辺りで転けた。
打ち所が悪ければ、怪我をしたかもしれない。幸い、どこも打たずに倒れたようで無事だった。
上がってくる方も何人かいた。恥ずかしく急いでその場を去る。
スロープのしたの自転車駐輪場のゲートを開けるボタンを押すため立ち止まる。すると、うしろから近づいてくる若い男性がいて、わたしに軽く「これ」という感じでなにかを手渡す。
それはわたしの定期入れだった。さっき転けたとき落としたのだ。
彼はすぐ背を向け立ち去った。わたしは軽く礼を言っただけだった。
あとから考えるとわざわざ拾ってかなり歩いてきてくれたのだから、もっと手厚くお礼を言って然るべきだった。

用事が終わり、戻ってきて自転車を押し、その駐輪場のスロープを上るときは、もうそのことをすっかり忘れていた。
というのは母がディサービスを利用していて、送迎の車で送られ帰ってまでに家に帰らねばならなかったから急いでいたからだ。
チャリンコを焦りながら家に向かいせっせと漕いでいると、近くにお住まいの知人が自転車を押して前を歩いている。
声をかけると、挨拶のあと「どこかパンクを直してくれるところ知りませんか?」と尋ねられた。
どうやら後輪がパンクしたらしい。だから押し歩きだったのだ。

わたしは、実は昔チャリンコ趣味、つまりツーリングに乗っていたからパンクはかなり前から自分で直していた。
いま急いでるので、あとでよかったら修理道具持っていきます、と言って一旦家に帰った。
その方は、いいと最初遠慮していたが、実際考えれば自転車屋さんは、もはやこの地域にはない。もし、自分で直さないなら、かなり遠くの隣の地域の店までパンクした自転車を押していかねばならないから大変だ。
直し方を尋ねられ、少し説明していたが、とにかく、あとで行くと約束し家へ急いだ。
なんとか間に合い、母を迎えたあと、知人の自宅に道具を持っていった。
パンクしたタイヤのなかからチューブを引き出し、空気をいれてみる。一見なんともなく空気の洩れは見つけられなかった。
しかし、水を入れたバケツに浸けると、案の定空気が勢いよくブクブク音をたてた。
穴のあいた部分にやすりをかけ、ゴムのりをつけ少しかわかし、補修用ゴムを切り、貼り付けた。
たぶんこれで大丈夫なはずだった。
のりが完全に乾き貼り付くまで待って空気を入れてもらうことにした。
別れて家に向かっていると、その知人が無事なもう一台の自転車(奥さんのものかもしれない)に乗り、追いかけてきた。
考えれば、追いかけられるのは今日二回目だった。
今度は、ドーナツを手渡された。
ありがたくいただく。
こういうことはすぐ忘れてしまうので、書いておく。