イーグルスの長くて深かった28年間〜ロングランからロング・ロードへの変換

雨がよく降る。
久しぶりに休みになり家にいた。最近バイト先で急病の方が出てかわりに入ったりして結構忙しかった。
ハロワ(ーク)にも顔を出し、またあの興奮のワールドカップもあった。(次の日仕事だったので最初は寝ていたが終わるまでに起き、勝利の瞬間は見れた。)
今日は久しぶりに一日ゆっくりし何をしたかというと二年前に発表されたイーグルスの二枚組のアルバム“Long Road out of Eden”を聴いた。
このアルバムの以前はイーグルスは1980年にライブアルバムを出して以来、あの2001年に起こったグラウンド・ゼロ、貿易センタービルの同時多発テロのことを歌った“Hole in the World”というアカペラ曲以外はオリジナルの曲を発表していない。
主要メンバーのドン・ヘンリーグレン・フライはそれぞれソロ活動をしていて、時たまツアーをイーグルスとしてやったりしたみたいだが、アルバムをレコーディングしたのは実にロングラン以来29年ぶりとなる。
なぜに彼らはこれほど沈黙していたか、というより二年も経ってしまったが、なぜ突如、休火山が噴火したように、活動する気になったんだろうか。
その問いの答えはともかく、あらためてその二枚組大作を聴きなおすといや〜これがよかった。
このアルバムは出た当時はすごい前評判で、おそらく昔のイーグルスファンの方は、懐かしい一途に買い求めたはず?だが、どういう評価をされていたか、当時は忙しくレビューをチェックしていなかった。
このアルバムは聴きごたえがあるし、一度目に聴いたとき聴き逃していることが、今回たくさんあったことを思い知った。
イーグルスと言えば「楽天?」みたいな返事が返ってきそうだが、“Hotel California”なら知っている人はいるだろう。
1976年に大ヒットしたこの八分に及ぶ曲が世界中で流れた。わたしは、小学6年だった。このアルバムが出た1976年、アメリカは建国200年を祝っていたが、皮肉にも実質的にベトナム戦争から手を引くことになる。アメリカがはじめて負けた戦争だった。朝鮮戦争から米ソの対立による一種の代理戦争は、冷戦下の象徴的な姿だった。ベトナムでも「共産主義から自由を守る」という大儀がアメリカにはあった。約10年以上続き、多くの犠牲者を出し、同時に反戦運動が盛り上がった時代だったが、戦場に多くのアメリカの若者が送られ戦ったのは『地獄の黙示録』等の映画で語られた通りである。
Hotel Californiaなるイーグルスのアルバムは全体としてこの時代のアメリカの深部を見事に表現しており、表面上なにもベトナムのことなど出てこないだけに、むしろそのため深く当時のアメリカに対する疑念「これでいいのだろうか?」というクエッションが浮かび上がってくる。
Hotel Californiaのタイトル曲の歌詞のなかに、うちのホテルでは1969年以降のラベルのワインは扱ってないとホテルのウェイターが言うシーンが出てくるが、1969年はニクソン大統領がベトナム北爆と呼ばれるベトコン攻撃を開始した年で、それ以降のアメリカを認めないという気分が色濃く反映されている。
さてそれから約30年以上経ち、イーグルスは再び自国に痛烈な、Hotel Californiaと比べるといささか分かりやすい批判を歌にしている。
ニユー(といっても二年前だが)アルバムのタイトル曲“Long Road out of Eaden”は、文字通り旧約聖書の「エデンの園」を追われた人類が、はるか楽園を離れ、アラブの戦場に戦いをむなしく繰り広げている様を、一人のアメリカ兵士にたくして歌っている。
それは遥かアメリカを離れ、という意味もかけられ、あんにその戦争の悲惨となんとなく嗅がれるアメリカの横暴さを糾弾している。
もう一曲“Frail Grasp on the Big Picture”(邦題:歴史は繰り返す、直訳:おおきな事象のあやふやな断面)というそれっぽい曲があり、「俺たちは歴史から全然学んでないらしい 同じ過ちを繰り返してばかりだ」という歌詞がある。
Hotel Californiaと比べるとたしかに直接的で音としても、そりぁHotel Californiaの方がシンボリックな歌詞や楽曲は上である。
しかしあのアルバムはまさにあの時代の苦悩がイーグルスをして奇跡的な表現を成し遂げさせた、いわば歴史的な記念碑であり、ピカソゲルニカのごとく、本人達をもってしても越えることはできない相談なので、おそらくこれからもそうであろう。
しかし、このLong Road…のアルバムは、なかなかいい線を行っているのだ。いくつか理由はあるが、ひとつにはアルバム末尾に納められているがあの9.11を歌ったHole in the World 以外にいくつか隠されたあの事件のイメージが繰り返し出てくるところだ。
そしてイーグルスはこんなふうに歌う。

がっかりさせたくはない
けどおまえは知るべきなんだ
ここは宇宙の中心じゃない
(“Center of the Univers”対訳:斉藤真紀子)

まさしくこれこそ最大のアメリカへのメッセージではないだろうか。
そしてこの歌はこう続く。「それでも俺はかまわない」と。
アルバムは二枚あり全21曲もあるなかで、こうしたメッセージ色濃い曲だけでなく、いい曲(ラブソング)も多いがすべてに事件の影がある。
このことは最初に聴いたときには、わからなかった。おそらく時間が経っていたからだろう。それを思うと、時期が遅かったのかもしれないが、ある意味早すぎたのかもしれない。
これからもっと評価されていくだろう。