前回U2の1987年の大ヒット曲”with or without you"を取り上げたのだが、この曲をもう一度聴きなおすため、レンタルCDを借り、歌詞の意味を読み直した。
with or without you/ U2 日本語訳:中川 五郎
See the stone set in your eyes きみの瞳に浮かぶ石のような冷たさ
See the thorn twist in your side きみを苦しめる不安の種
I wait for you ぼくはきみを待っているSlight of hand and twist of fate 手先の早業 運命のいたずら
On a bed of nails she makes me wait 針のむしろの上で
And I wait...without you あの娘はぼくを待たせる
そしてぼくは待つ・・・きみなしで
With or without you きみと一緒それともきみなしで
With or without you きみと一緒それともきみなしでThrough the storm 嵐を切り抜けてぼくらは岸辺にたどり着く
we reach the shore きみはすべてをさらけ出すけど
You give it all but I want more それだけじゃぼくには物足りない
And I'm waiting for you そしてぼくはきみを待っているWith or without you きみと一緒それともきみなしで
With or without you きみと一緒それともきみなしで
I can't live ぼくは生きていけない
With or without youAnd you give yourself away そしてきみは本心をさらけ出す
And you give きみは正体をあらわす
And you give yourself away そしてきみは自分を出す
きみの本心をさらけ出す
My hands are tied ぼくの両手は縛られ
My body bruised,she's got me with あの娘にぼくはやっつけられて
Nothing to lose 勝つすべは何ひとつなく
失うものもこれ以上何もない
With or without you きみと一緒それともきみなしで
With or without you きみと一緒それともきみなしで
I can't live ぼくは生きていけない
With or without you きみと一緒それともきみなしで
(U2 THE BEST OF 1980-90 C PolyGram International Music B.V.)
この歌詞が、恋愛関係の男女のことを歌っているのは、言うまでもない。
しかし、発表当時のU2の公式のプロモーション・ビデオらしき映像がYouTubeにあったので、見るとなかなかシリアスなドラマが想定されている。
このラブソングは、しかしながら簡単な歌ではない。非常にシンプルでスリムで、骨が透けて見えるほど、ストイックな精神〜ジャコメッティの彫刻のような〜が、貫らぬかれ、象徴的で神話的な対立、男と女、文明と文化、生と死、肉体(性)と精神、皮膚と骨、などなど、およそ人類の矛盾する対立の起源まで掘り起こす世界観がある。
そして、この最後の両極に引き裂かれるかのような矛盾に横たわり、そこで発する魂の叫びのような声は、超越的な何か、宗教的でさえある衝動、救いさえも感じるのである。(プロモーションビデオでは、祭壇に祈る殺人を犯したらしき少年と、殺されたらしき少女から、産み落とされた子供らしき写真が写される。どうもこのストーリーは、スターウォーズ・エピソードⅢを想起させなくもない。)
何日か前の内田先生のブログに「荒ぶる神の鎮め方」という記事があった。
(記事全文はこちら→荒ぶる神の鎮め方 - 内田樹の研究室
その続き「原発供養」→原発供養 - 内田樹の研究室)
この中の、「荒ぶる神」とは、原子力であり、東北地震で津波にあい、爆発を繰り返し、放射能を撒き散らすことになった福島第一原発のことなのである。
平川くん、中沢新一さんと、「カタストロフの後、日本をどう復興するか」について、語り合う。
その中で、中沢さんが「第七次エネルギー革命」で人類ははじめて、生態系に存在しないエネルギーを、いわば「神の火」を扱うようになった、という話を切り出した。
そのときmonotheisticとい単語が出て来た。
原子力テクノロジーというのは、いわば「荒ぶる神」をどう祀るかという問題である。(略)
原子力は20世紀に登場した「荒ぶる神」である。
そうである以上、欧米における原子力テクノロジーは、ユダヤ=キリスト教の祭儀と本質的な同型的な持つはずである。
神殿をつくり、神官をはべらせ、儀礼を行い、聖典を整える。
そう考えてヨーロッパの原発を思い浮かべると、これらがどれも「神殿」を模してつくられたものであることがわかる。
中央に「神殿」があり、「神官」たちの働く場所がそれを同心円的に囲んでいる。
その周囲何十キロかは恐るべき「神域」であるから、一般人は「神威」を畏れて、眼を伏せ、肌を覆い、禁忌に触れないための備えをせずには近づくことが許されない。
それは爆発的なエネルギーを人々にもたらすけれど、神意は計りがたく、いつ雷撃や噴火を以て人々を罰するか知れない・・・(略)
(内田樹の研究室「荒ぶる神の鎮め方」より)
しかし、日本人は、一神教の世界(ヨーロッパ系のキリスト教文化圏)では、「神」として扱われていた原発を、単なる金を生む技術というような「俗」な脈略で導入した。
もし、寺社仏閣におけるような、宗教的なシステムをその施設の構造や運営に採用していれば、このような事故は防げたのではないか、というのが内田先生の仮説である。
これは、21世紀の現代では、オカルトの世界や新興宗教的な文脈でしか語られない、「霊」の世界を、ラカンからレビィナスに至るフランス哲学の理論の元、長年、研究されてきた内田先生ならではの、非常にラディカルで刺激的な洞察と思われる。
そして、今、事故にあって壊滅的な被害にあった原発を、われわれは「供養」してやらねばならない、と語る。
それが、もっとも効果的な、原発鎮火作業の心得であり、それは日本人が、自然のなかでの仕事の事故を防ぐために、海の神山の神を祭る神社に祈るのと同じだと。なにもそれは、神が本当にいるからでなく、セレモニー自体にいわく言いがたい重要な意味合いがあるのだと、言われる。
卓見であると思う。
ところで。どうでしょうか。
上記のU2が歌う "with or without you"の"you"と、このブログの「荒ぶる神」はなんと似ていることでしょう!
And you give yourself away そしてきみは本心をさらけ出す
And you give きみは正体をあらわす
And you give yourself away そしてきみは自分を出す
きみの本心をさらけ出す
My hands are tied ぼくの両手は縛られ
My body bruised,she's got me with あの娘にぼくはやっつけられて
Nothing to lose 勝つすべは何ひとつなく
失うものもこれ以上何もない
With or without you きみと一緒それともきみなしで
With or without you きみと一緒それともきみなしで
I can't live ぼくは生きていけない
With or without you きみと一緒それともきみなしで